Conditioned response
彼のマンションの玄関を入ったところで、いきなり腕を引かれた。
えっ、と思う間もなく抱きしめられて、唇を塞がれていた。
唇で。
突然だったから、俺は驚きのあまり眼を見開いたままで。そして、俺のすぐ目の前にある紫紺の眼差しも、瞼に閉じられることなく俺を見つめている。
その眼差しが、あまりにも熱っぽくて、俺は目を閉じることも忘れて、見つめ返していた。
重なり合った瞬間に、咄嗟に開いてしまった唇の間から進入してきた彼の舌が、まるで俺の口の中を蹂躙するみたいに動き回るから、気がついたら俺も舌を差し出して、互いの味を確かめ合うように、奪い合っていた。
頭の中では戸惑いながら、そのくせ、すでに俺の身体の中心には熱が集まり始めていたんだ。
いつの間にか、俺の腕は縋りつくように彼の首に回されていて、彼は俺の背中と腰に腕を回して俺の身体を強く抱きしめている。密着しあった下肢に、互いの高ぶりを感じながら、まだ目も閉じずに見つめあっていた。
吐き出される吐息すら惜しむように、互いの舌を絡め合わせて吸い合って。無意識のうちに腰を動かして、布越しに互いの熱を擦り合わせて、快感を追いかける。
そうしているうちに、だんだん頭の中がなんだかよくわからなくなってきて、目を開けていられなくなって。
俺が瞼を閉じようとした瞬間、目の前の紫紺の眼差しが、柔らかく微笑んだのを見た気がした。
と、腰に回されていた彼の手が前に回って、いきなり俺のベルトに掛かって、それを外そうと動き始めた。
そのことで正気に戻った俺は、慌てて必死でもがいて、ようやく濃厚なキスから逃れた。
「み、御堂さんっ、こんなところでどうする気なんですかっ?!」
「今すぐ、君が欲しい」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! ここ、玄関なんですよっ!!」
そう、じつは俺たちは、まだ靴も脱いでいない。
それでなくてもこの場所では、以前、彼に無理やり抱かれた記憶が生々しい。そんなところで、またこんなことをしてしまっては…
「何か問題でもあるのか?」
不思議そうに訊いてくる男に、あいた口がふさがらないとはこういうことを言うのだなと、心底実感する。目の前の知的な顔と、やっていることのバランスが、見事なほどに取れていない。
「大有りですっ!」
もう顔が熱くて、自分でも紅くなっているのがわかる。そんな俺を、彼は面白そうに見つめている。そんな余裕をかました表情ができるのなら、どうしてベッドまで待てないのだろう。
そう俺が考えている間にも、また彼の手が動いた。
「君のここは、もう待てないと言っているようだが?」
言いながら、熱くなっている俺自身を、ズボンの前立ての上からねっとりと撫で上げてくる。その感覚にビクンと身体を震わせると、彼は笑みを深めて、今度は俺の首筋に舌を這わせてきた。
扉一枚で外と繋がっている場所だという背徳的な想いと、直接身体に与えられる刺激に煽られて、頭の中が痺れるような感覚を訴える。
身体が小刻みに震え出すのを止められない。洩れそうになる喘ぎを必死で堪えても、荒くなる息を抑えきれない。
それでも…
「や…だめ…ですって…」
そんな状態に陥りながらも、なおも抵抗すると、顔を上げて彼は俺の目を覗き込んできた。
「随分と頑張るな。なぜだ?」
欲に濡れた眼差しに、俺は身体の芯から痺れてしまいそうになる。けれど、ここで流されていては今後に関わってしまうのだ。
「こ…こんなところでまたやっちゃったら…俺、今度からここ通るたびに、絶対おかしくなっちゃいますよっ!」
それだけは勘弁して欲しい。
玄関を通るたびに、欲情してしまう自分… 考えただけで恐ろしい。
夜はともかく、朝の出勤時など、どうすればいいというのだ!
彼は目の前で、何かを考えるようにしばらくの間、俺をじっと見つめていたけれど、急ににやりといやな笑みを浮かべた。
「それは、面白いな」
「なっ!」
気がついてはいた。
いや、最初からそうだとわかっていたはずなのに。
目の前の、この知的を絵に描いたような顔をした男が、ドSだってことぐらい…
結局、そのままなし崩し的に俺が流されてしまったことは、言うまでもない。
その後、俺が御堂さん宅の玄関を使うたび、何を思い、どういう状況に陥っているのかは。
どうか訊かないでくれ…
了
07/12/13
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微エロ風味な御克でしたv
タイトルの意味は「条件反射」なんです///
07/12/13UP
14/12/16再UP
-竹流-
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