LOST




限界だった。

ここへ連れて来られてからというもの、昼となく夜となく、何度も何度も太一の気の向くままにいたぶられ、犯され続けて。
与えられているのが、苦痛なのか快楽なのかさえ、よくわからなくなっていた。

ずっと、以前の太一がもどってきてくれることだけを願っていた。
ずっと、待っていた。
けれど、もう、駄目みたいだ。

ごめんね、太一…



「大好きだよ、克哉さん」
何度目かの精をおれの中に吐き出すと、太一はそう言っておれを抱きしめた。
優しい声で、冷たい眼差しで、以前とは違う笑みを浮かべて。
その顔を見るたび、おれは、自分がどんなにひどいことをされていても、申し訳ない気持ちでいっぱいになって、苦しくて哀しくて、どうしようもなくなるんだ。
それが罪の意識から来ているのだと、おれは思っていたけれど、でもどうやらそれは違ったみたい。

そのことを、太一に伝えたかった。
最後に。

まるで自分のものではないみたいに、重くて軋む腕を動かすと、自分の上に覆いかぶさったまま、じっと見下ろしている太一の頬に、おれはそっと手を伸ばした。
おれがこんなことをするのは初めてで、太一の目が一瞬、驚きに見開かれる。
太一の頬は温かで、おれはそれだけで、泣きたい気持ちになる。

「た…いち」

喘がされ続けて、掠れた声しか出ない喉を震わせて、それでも懸命に声を絞り出す。
そんなおれに、何かを感じたのか、太一は頬に当てたおれの手に自分の手を重ねた。
「なに? どうしたの? 克哉さん」
太一の顔から、笑みが消える。その目の中に、不安の色が広がってゆくのを、おれは静かに見つめていた。

「もう…以前の太一は…もどって…来ないんだな…」

言葉にすると、涙が溢れてきた。
自分がどれだけそれを望んでいたのか。
その理由に、おれは気付いてしまった。

「以前のおれって、なんだよ。おれはおれだろ? 克哉さん」
おれの言っていることがわからないのか、太一は眉をしかめておれの顔を覗き込む。
その冷たい表情に、胸の奥がきりきりと痛むんだ。
どんなに身体を苛まれるよりも、その痛みの方が、おれは辛かった。
今まで、ずっと。

「…たいち…おれは、おまえが…好きだった…んだ」
「克哉さん?」
「…以前の太一が…明るくて…やさしかった太一が…すごく…すきだった…もどって…ほしかった…」
太一の顔がこわばるのがわかったけれど、おれは続けた。

「…おれが…変えて…しまったんだよな…」

あんなに大切なものだったのに。
そのことに、気付きもしないで。

「ごめん…ごめんね…たいち」

視界が涙で潤んで、太一の顔がぼやけてよく見えない。

「…すき…だった…大好き…だった…た…いち…」
「なんでっ! どうして、過去形なんだよ! 克哉さん!」

太一が声を荒げたけれど、なんだかそれは、ひどく遠くから聞こえてくるようで。

ふと、目の前の太一が、以前の優しい笑顔に戻っているように見えた気がした。
おれは、泣きながら微笑んだ。

「…たいち…だいす…き…」

ごめん、ごめんね。
もう、耐えられないんだ。
自分の犯した罪の重さを、見つめ続けることが。

ねえ、太一。
この世には、どんなに後悔しても、決して取り戻せないものが、あるんだね…


突然、ぷつりと、まるで電源が切れたみたいに視界が暗くなって。
そして次の瞬間、再び視界が明るくなった。

「克哉さん」
優しく微笑む太一が、いたずらっぽくおれの顔を覗き込んでいる。
「あれ? 太一?」
気がつくと、自分のアパートの中で、自分のベッドの上だった。
「疲れてたんだね。おれが遊びに来たらさ、寝てんだもん」
「えと?」
「あっ、克哉さん、もしかして今日おれが来るの忘れてた?」
「ん~~~、ごめん。そう、みたい…」
慌てて身体を起こしながら、ばつが悪くて、頬が赤らんでしまうのが自分でもわかる。そんなおれを見ながら、不機嫌そうに太一は唇を尖らせた。
「ひっでー。おれ、すごく楽しみで、昨日の夜なんか、そのせいで寝れなかったのに~」
「えっ、うそっ」
おれが驚いた顔を見せると、ぺろりと太一は舌を出した。
「へへ、う・そ」
「あっ、こら、騙したな~」
顔を見合わせて、笑い合う。

優しい太一、その明るくて優しい笑顔。
いつもと変わらない、穏やかな時間。
変な夢を見ていた気がするけれど、もう、忘れてしまおう。
太一が傍にいてくれて、変わらない笑顔を見せてくれるだけで、おれは、幸せだ…



もう、何も聴こえない。
もう、何も感じない。
何もわからなくなった身体の奥深く。

おれは夢の世界に、逃げた。



07/12/01
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黒太一バージョンでした。
暗くってすみません(汗)。

07/12/01UP
14/12/16再UP
-竹流-


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