狂い咲く花
変化は、いつ、訪れたのだろう。
何も無い空間に、突然、それは芽吹き、血の色の、花を、咲かせた。
わたしだけの暗い世界に、その花はまるで生あるもののように揺らめき、その存在を主張する。
触れてみたいと、思ったのは、なぜだったろう。
ずっと、ただひとりの世界で、満足していたというのに。
何者にも縛られない。
どんな価値観にも、括られない。
善も、悪も、そんなものに意味は無い。
自分の中の、暗い欲望だけをみつめて、それを満たすことにだけ、心血を注いできた。
人間がこの世に存在する限り、舞台はいくらでも作り出すことができる。
醜い欲望、醜い願望、醜い感情。
人間の本質など、所詮そんなもの。
その犯した罪に見合った舞台を、用意しよう。
愚かなマリオネットたちは、命がけの喜劇を、舞台の上で、演じる。
最高のエンターテインメントじゃないか。
さあ、笑いたまえ!
醜い死に様ほど、笑えるものはないだろう?
そして恐怖を、その胸に、刻み込むがいい!
次は自分の番ではないかと、怯え慄くがいい!
罪を犯さぬ人間など、この世に存在しないのだから。
ただ、いくら素晴らしい舞台を作り上げても、その価値を真実理解する者がいなくては、興ざめというもの。
そのためのゲストとして、彼ほど相応しい人間はいないだろう?
生意気で、何処にでもいるような男子高校生。
一見凡庸そうに見える彼の、けれど、その真っ直ぐな瞳が見つめるものは、ただひとつの真実。
卓越した推理力と、洞察力で、わたしの仕掛けた罠を、次から次へと見破って。
なんて、楽しいのだろう!
彼がいるからこそ、わたしの舞台は、更なる深化を遂げる!
次に、彼に会う時には、もっと素晴らしい舞台を用意してあげよう!
そして、いつか、
わたしはそこに、わたしと対になるものの姿を見出していたようだ。
ずっと平行線だと思っていたそれは、けれど、そうではなく。
鏡の表と裏のように、もとは一枚のものであったのだと。
気付いてしまった。
血の色の花が、咲く。
暗く、何も無い、わたしの胸の中に。
やがて、それは増殖し、いつかわたしの中を、埋め尽くしてしまう。
そんな、予感が、する。
そのとき、わたしは、どうするのだろう?
咲き乱れ、狂い咲く、血の色の花。
それは、破滅への階(きざはし)なのだろうか。
それとも、何かの、始まりなのだろうか。
薄い笑みを刻んで、わたしは、花にくちづける。
どちらでも、構いはしない。
揺れて、狂い咲くがいい。
何も無い、この身を、この心を糧として。
狂気の、花を、咲かせ。
05/05/17 了
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単発もので、ございます。
これは、「DEVIL」と「PANDORA」の間あたりに位置するのか、もしくは
全くの別物、と考えていただければよろしいかと思います。
どうしていきなりこんな作文を書いているのかというと。
ぽっと、この題名が浮かんだからなんですね〜vというか、
今、まだUPしてない作文の高遠くんに、妙に、納得がいかなくて、
より、原作に近いイメージで、一度書いておこうと思ったわけです。
って、原作に近いイメージで、これかよ!と、思われた方、ごめんなさい。
05/05/17UP
−新月−
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