スキナトコロ





「あんたさ、いつも思うんだけど、なんでそんなに嬉しそうなわけ?」

また来た、と、ぼくは思った。こういうシチュエーションにまで持ち込まれてて、どうしてきみは、そういうことを聞くのかな?
時々、きみは何かを確認したがるように、ムードも何も、まるで関係の無いことを言い出す。

「どうしてそんなことを聞くんです? 男だったら当然だと思いますけど?」
「…でも、おれなんか抱いて…嬉しいわけ?」

やはり、この行為自体に未だに慣れない、ということなのだろうか。

「好きな人を抱いているのに、嬉しくないわけないじゃないですか」
「ん~~~~~。じゃあさ、おれのどこが、そんなに好きなわけ?」

問われて、少しとまどいを覚える。
そんなことを、真面目に考えたことなど、あるわけもない。
ひとの感情なんて、きっともっと、感覚的なものであるはずだ。
けれど、答えなければ、きみは満足しなさそうだし。
などと、少しの間、考えてしまった。

「………………すべてv」
「…今、すっごく間が長かった気がするんだけど…」

こういうところだけ、鋭いのは、反則だと思ったり。

「…そんなことは、ありませんよ?」
「うそ、今、すっごく考えてただろ!」
「だから、そんなことはありませんって」

少々の嘘は、当然だと思ったり。
こんな状況だと言うのに、ぼくの頭も、結構忙しい。

「どこが好きって聞かれて、悩まなきゃいけない程度なんだ、おれって!」

拗ねたように口を尖らせて、横を向こうとしたきみの頬に手を当てて、それを阻止する。
何処にも逃げられないように、身体を密着させて。

「じゃあ、訊きますけど、きみはぼくの、どこが好きなんですか?」

これでどうだとばかりに、にっこりと色っぽく微笑んでみせてやると、きみの顔が、見る間に紅く染まる。
こんな風に、素直に反応を返してくるきみは、やっぱり、すごく、かわいいと、思う。
かわいい、なんて言うと怒るから、決して口には出さないけれど。
そんなことを考えていると、たっぷりと時間を掛けて悩んだきみが、口を開いた。

「………………え~っと、やっぱ、顔?」

どう答えてくれるのかと思ったら…ちょっとショックかも、ですね…

「………言うに事欠いて、顔、ですか…」
「だって、おれ、高遠がその顔じゃなかったら、絶対、抱かれるのなんて嫌だもん」

きっぱり、はっきり、言い切られた言葉に、どう反応を返していいのやら、悩む。
これは、自分がこの顔でよかったと、喜ぶべきところなのだろうか?
なんだか、違う気がする。
でも…

「…もう、これは…お仕置きですね」
「やっ、ちょっとまっ…」

言葉の途中でくちびるを奪って、それ以上の言葉は閉じ込めてしまおう。
いま、きみのくちびるから聞こえるのは、切なく喘ぐ声、だけでいい。

きみに、溺れて。
きみを、溺れさせて。
ふたりだけの時間を、たゆたう。

そして、想う。

刹那の悦びに、その身を堕としているきみは、だれよりも悩ましくて、綺麗だ。
ぼくも、きみのその顔は、すごく、好きだな。
胸の中だけで、そう、呟く。
ぼくがこの顔じゃなければ、きみのその顔も見られなかった、というように考えたら、やっぱり、この顔でよかったと思うべきなんだろう。
ちょっとばかり、釈然としないでもないけどね。

でも、本当は知ってる。
きみがぼくを好きなのは、そんなところだけじゃ、無いって。

恥ずかしがり屋の、はじめ。
でも、きみの気持ちは、とてもストレートでわかりやすいってことを、きみは知ってた?

ぼくを求めて、差し出される、その腕が。
切なげにぼくを呼ぶ、その声が。
熱くぼくを見つめる、その、眼差しが。
何よりも、真実を語ってくれる。

だから、ぼくも教えてあげるよ。
きみのどこが、好きなのかを。
ぼくのすべてを、使って。

さあ、互いの本音で、語り合おうか。
夜は、まだ長い。

言葉ではない言葉で、語って。

きみも知らない、きみの顔を、ぼくにだけ、
もっと。

見せて。



05/06/18     了
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すいませ~ん。ちっとも、エロくない裏でした。
もうちょっと、頑張った方が、いいんでしょうか? って、なにを?
まあ、竹流が書くんですから、こんなものです。はい。

05/06/20UP
14/09/21再UP
-竹流-


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