Make Love Ⅱ
深く、何度もくちびるを重ねあった。
すでに高まり合った身体は、もう、服を脱ぐのももどかしく、かなぐり捨てるように、ベッドの隅へと投げ捨てられた。
昼日中で、遮光性ではないカーテンは、部屋の中に薄く明かりを透している。
互いの裸体が、はっきりと見えてしまう中、羞恥が無いわけでは無かったけれど、煽られるだけ煽られた身体は、もう、熱をどうにかして欲しくて、どうしようもないほどに、高遠を求める。
一ヶ月ぶり、くらいだろうか、この温もりに触れるのは。
ふたりで暮らす準備をするために、一足先に高遠はこっちに来ていたから、出発する前の日に触れ合ったのが、最後。
付き合いだしてから、一週間と置かずに抱き合ってきたから、このひと月は、自分でも驚くほどに寂しかった。時折、発作のように訪れる、高遠を求めて、止まない衝動。その度に、高遠を想って自慰をした。下も、自分で刺激して。
けれどそれを、怖い、とも思った。
いつの間にか、高遠に抱かれることに慣らされ、自分が男である、ということの意味や価値が、無くなってしまったような気がした。
これでいいのか? と、悩まなかったといえば、嘘になる。
今なら、まだ、引き返せるんじゃないかと。
けれど、そう考えるたび、答えは簡単に出た。
高遠が、好き。
高遠だけが、欲しい。
あとは、なにも、いらない。
これが、溺れる、ということなのかもしれない。けれど、自分でも、止められない。
ならばこれでいいのだと、きちんと自分の中で、結論を出すことが出来たひと月でもあった。
すべてを背負って生きる、覚悟も、できた。
なにも、後悔なんて、しない。
おれは、この人だけを、望む。
たとえ、すべてを、裏切っても。
首筋をきつく吸われて、頭の中が真っ白になって、痺れるような感覚に襲われる。
高遠のしなやかな指が肌に触れるだけで、熱が生まれて、身体の中心に集まってゆく。
「…や…あっ…」
恥ずかしいのに、声が漏れてしまう。
思わず、口に手を持っていくと、高遠に阻まれた。
「もっと聞かせて…君の、声を」
おれの手首をつかんだまま、首筋から胸元へとくちびるを滑らせてゆく。
「はっ…あぁっ!」
胸の尖りを口に含まれて、舌で刺激される。どうしようもない快感に襲われて、身体が跳ねた。
高遠の手がおれの手首を離したと思ったら、もう片方の胸を弄られる。
弄られ、爪で刺激を与えられ、あるいは、軽く甘噛みされ、どうしようもなく、熱だけが高まってゆく。と、急に、高遠が身体を離した。
「たかとお…?」
「少し待ってください。本当なら、先に一度、イカせてあげたいところなんですけど…ぼくも今日は、余裕が無いので…」
ベッドの横のサイドテーブルの引き出しから、何かを取り出してくると、おれに口づけた。
「少し冷たいかも知れませんけど、我慢してくださいね」
おれの片足を軽く上げさせると、その間の窄まりに何かがあてがわれた。
「えっ? な…なに?」
おれが不安がると、何度も軽いキスを落として、
「ローションです。固くならないで、力を抜いていて」
するりと、抵抗無く細い何かが差し込まれる感覚がして、次の瞬間、冷たいものが体内に注入されるのがわかった。
「…うっ…」
違和感が、無いと言えば嘘になる。大体が、その場所自体の使う目的が違うのだから。
それが引き抜かれると、今度は高遠の指がゆっくりと侵入してきた。
「大丈夫ですか?」
おれはもう、答えることができなくて、ただ、がくがくと頭を振ることしかできなかった。
高遠のくちびるが、おれの身体の弱いところを攻めるように辿り、おれの体内に差し込まれた指は、やがて一本から二本へと本数が増やされ、さっきの液体を塗りこめるように蠢く。いつもよりも、性急な気はしたけれど、三本に増やされる頃には、だんだん、違和感以外の感覚がおれの中に芽生えていて、もっと奥まで触れて欲しいと、勝手に腰が揺れ始める。
もう、何度も与えられ、慣らされた感覚を身体は覚えていて、それを、無意識に欲しがる。
おれの物なのに、おれの意思を離れて男を求める、なんて淫乱な、身体。
高遠の指が、ある一点を掠めたとき、大きく身体が震えた。
その瞬間、何かを求めて、我慢できなくなった。
おれの中の理性が、瞬間、切れた。
「ああっ! もう…来て! たかとお!」
ずる…と、指が引き抜かれると、ほっとするような、もどかしいような感覚が体内に生まれる。けれど、ほっと息を吐いたのもつかの間、両足を、膝が胸に着くくらい折り曲げられ、ひどく恥ずかしい格好をさせられたと思った、次の瞬間には、すぐに熱い高まりがそこに強く押し当てられた。
「はじめ…いいですね?」
高遠が確認するように、声を掛けてくる。
おれは、ただ、熱に浮かされたように、頷くしか無かった。
「あっ! …はっ…ああぁっ!」
指なんかとは、比べ物にならないくらいの圧迫が、異物感と、焼け付くような感覚を伴って、押し入ってくる。内蔵を押し上げられるような、苦しさ。あまりのつらさに、涙が浮かんだ。苦し紛れに掴んだシーツが、うねるような波を描く。
初めて経験した頃のような激痛こそ無くなったけれど、でも、最初のこの感覚だけは、何度繋がろうと慣れることはできないだろう。
好きでなければ、絶対にこんなことできない、と、思う。
高遠だから、堪えられる。
高遠だから、喜んで、受け入れられる。
高遠だから…
だから、もっとおれの気持ちを、知って…たかとお…
「…うっ…くっ…」
苦しがってる顔を見られたくなくて、横を向いて涙を浮かべながら、身体を震わせて堪えているおれの頬に、そっと、やさしいくちづけが降りてきた。
「もう少し、我慢してください…力を、抜いて」
横を向いたまま頷くおれに、また、キスの雨を降らしながら、ゆっくりとおれの中へ、この人は押し入ってくる。
おれの身体を気遣ってくれてるのが、わかる。
余裕無いって言ってたのに、もっと、無理させてもいいのに、高遠は、やさしい。
「は…あ…」
ぜんぶ、おれの中に収めきった高遠が、耳元で、吐息のような、震える声を洩らした。
おれの身体で、感じてくれてる。
ただ、それだけで。
どうしようもなく、嬉しくて。
「…好き…だよ…たかとお…」
高遠の首に腕を回して、口づけを強請る。
「ぼくも、好きですよ、はじめ」
くちびるを重ねて、よりひとつになって、もっと深く、繋がりあって、互いの存在を、想いを、確かめ合って。
何よりも、自分の中の想いを、自分で確かめて。
おれの中で、高遠が熱く息づいてるのを、感じる。
高遠は、自分のものがおれの身体に馴染むまで、じっと、動きたいのを我慢してくれてる。
それは、物凄く理性を総動員しなくてはならないことなんじゃないかと、おれは思うけど、高遠はいつも、なにも言わない。
でも時々、この人の理性の箍は、壊れてしまうときが、あるけれど。
でも…いいんだ。あんたの、好きにして…
「も、いいよ…動いても…」
「大丈夫ですか?」
「うん…」
高遠は、少し身体を起こして、おれを見つめた。
おれは、瞼を閉じた。
緩やかな動作で、何かを確かめるように、高遠が突き上げてくる。
さっきのような苦しさは、もう、感じなくて、おれは、自分の中に生まれる別の感覚にとらわれ始める。意識のすべてが、そこに、集中するみたいに。
びくんと、身体が淫らに震えた。
「…あ…ああ…ん…」
まるで、自分のものではないような甘い声が、おれのくちびるから零れると同時に、どうやら高遠の箍が、外れた。
さっきまでの、穏やかなやさしさが嘘のように、激しく、突き上げられる。
抜けそうになるぎりぎりまで引き抜いて、最奥まで貫かれる。何度も、何度も。
身体が、壊れてしまうんじゃないかと想うくらい、この人の愛し方は激しい。
けれど、高遠の本質は、こっちの方が本当なんだろうと、追い上げられながらぼんやりとした頭で考える。
すべてを焼き尽くしてしまうような、苛烈な激しさ。
烈火のごとく、熱く燃えさかる、青白い焔。
それが、このひと…
「あっあああっ!…はっ…あぁっ…!」
絶え間なく、おれの口から嬌声が上がる。乱されて、自分でも、もう、なにがなんだかわからなくて、ただ、自分に与えられる快感に、追い上げられて、追い詰められて、高遠だけしか感じられなくて。
この、蒼い部屋の中には、おれの声と、高遠の息遣いと、繋がりあったところから聞こえてくる、水音だけが響いて、まるで、海の底に沈んでゆくような錯覚を覚える。
ああ、いいかもね…ふたりで、どこまでも、沈んで。
そして、どこまでも、昇ってゆくんだ。
「…あっああっ! …は…あっ!…た…たかとお…おれ…もう…!」
すでに、先走りで濡れそぼっているおれのものは、解放を求めて、小刻みに震えている。
「もう、イキたい?」
高遠の指がおれ自身に絡みつくと、解放を促すために、激しく上下に動き始める。
繋がりあったところも、同じように。
「ああっ…あっ、やっ、…は、あああっ!」
感じる所を、的確に押さえられた愛撫に、おれは簡単に追い詰められてしまう。
頭の中が、どうにかなってしまいそうな、刹那の快楽。
あまりの快感に、身体が仰け反る。
「あっ!ああああああぁっ!」
その瞬間、白濁した色の体液を、おれは高遠の手の中に吐き出しながら、おれの身体の中の高遠が、おれの締め付けに反応して、ひと際大きくなったと同時に、熱い迸りをおれの中に吐き出したのを感じた。
「…くっ…」
高遠の口から、快感を堪えるような声が、短く漏れる。
ただ、それだけで、満足で、充たされて、幸せ…だ…
少しの間、意識を失っていたのかもしれない。
気がつくと、高遠が、おれの隣で横になりながら、おれの顔を覗き込むように見ていた。
穏やかな表情で、おれの頬を、愛しげに、撫でながら。
「…なにしてんの?」
おれが、訝しげに訪ねると、くすっと、笑みを零した。
「きみの寝顔を見てました」
「…おれの寝顔なんか、見てて楽しいのか?」
「そうですね…不思議な、気分でした」
「なにそれ?」
「…自分の、気持ちが…ですよ」
そう言って、その金茶の不思議な色の眼に、揺らぎを浮かべた。
「決して、交わることの無い存在だと思っていたきみと、こんな風になってることが…」
「そりゃ、おれもそう思ってるよ」
おれの言葉に、高遠は切なさを滲ませたように微笑む。
「そうですね…でも、まさか、こんなにもきみに惹かれて、きみのことを大切に想う日が来るとは、自分でも、想像もしていませんでした」
真剣なその眼差しに、おれの胸まで、なぜだか、きゅっと、切なくなる。
「たかとお…」
おれが手を差し伸べると、その手を取って、その指先に、高遠はそっと口づけた。
「じつは、とても不安だったんです」
ぽつりと、呟きながら。
「本当に、きみは来てくれるのか、と」
おれの指に、指を絡ませて、ゆっくりとおれの上に覆いかぶさる。
高遠の、白くて綺麗なラインを描く身体が、眼に映る。同じ男でも、うっとりするくらい、綺麗だと思う。薄く付いた、胸や腕の筋肉も。無駄の無い、シャープな腰のラインも。
「でも、日本まで、迎えに行くわけにはいかなかった」
言いながら、高遠はおれに、口づけを落とす。
「きみが、ぼくを選んでくれなければ、意味が無かった」
何度もキスを降らしながら、高遠は続ける。
「だから、とても嬉しい。きみを、大切にしますよ」
そして、また微笑む。今まで、見たことも無いような、綺麗な笑顔で。
思わず見とれていると、その綺麗な笑顔のままで、とんでもないことを言われた。
「だから、もう一度、いいですよねv」
はい?
それって、どういう意味ですか? っていうか、話が全然違うんじゃないですか?
などと頭の中で考えてる間にも、高遠はおれの身体に触れてくる。
やっ、ちょっと待てって。
おれ、疲れてんだけど…って、聞いてねえ…
おいおい、初日からこれかよ。
…あんた、本当におれのこと、大事にする気、マジであんのか?
この後、おれが動けなくなるほど、無理をさせられたのは言うまでも無い。
おれ、選択を、間違えたかなあ…(泣)。
05/06/25 了
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はずかし~~~。////。
自分で書いてても、恥ずかしいって! いや、こんなのアップしても、い…いいのか?!ワタシ!
いいのか、悪いのかは別として、とりあえず、頑張ってみましたv
一応、書くだけ書いてはみましたが、あんまりエロくない気がする…
くっ、描写力の限界か…
でも、こういうの先にアップして、ふたりのお初は後になってしまうというパラドックスはありますが、まあ、勘弁してください。
05/06/26UP
14/09/21再UP
-竹流-
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