愚か者の恋情




「…う…う…もう…やめて…」

涙に濡れた瞳で、ぼくを捉えると、きみは苦しげに、そう呟いた。
もう随分と啼かされて、すでに声は嗄れている。

「なぜ? ぼくに抱かれるのは、いや? ぼくはまだ、足りない」
「…そ…んな…」

そして、また、ぼくの突き上げに、悲鳴のような声を洩らす。
泣きながら、その呼吸は震えて、嗚咽に近かった。
そんなきみを見ながら、暗い悦びが、胸の内に広がってゆくのを感じる。
狂った感情が、どうしようもなく、きみを求めてる。
すべてを、壊してしまいたいほどに。

過ぎた快楽は苦痛なのだと、きみを抱くまで、ぼくは知りもしなかった。
狂ったように、きみを求めた夜、初めて、そのことを知ったんだ。

涙に濡れて、意識を失ったきみを見て、どれだけ後悔したか知れない。
なのに、愚かなぼくは、何度も同じ過ちを繰り返した。
どうしようもなく凶暴なものが、この身体の奥深くには巣くっていて、それは時折、鎌首を擡げ、きみを生贄に、ぼくという暗い祭壇へ、捧げる。

「あああっ!…う…くっ!…おねが…い…もう…ゆるして…」

何度と無く、きみがぼくに許しを請う。
けれど、残酷なぼくは、そんなきみの泣き言すら、快楽に感じてるんだ。

ぐじゅり、ぐじゅりと、動くたびに、繋がりあった部分から、いやらしい音が聞こえる。
何度となく、きみの中に、ぼくが吐き出したものが、そこから零れ、滴っている。
ぼくからはその部分が、なにも隠されることなく、すべて見えていて、よけいに劣情を掻き立てられてしまう。
ただ、赤く鬱血したそこからは、痛々しく、微かに血が滲んでいるようだった。
なのに、やめることが、できない。

「ねえ、もっと深く、ぼくを感じてよ」
「…はっ…たかと…もう、おれ…むり…だ…」
「だめだよ、もっと、ぼくに、頂戴」
「あ…ああっ!…た…かと…!…っ!」

突き上げを激しくしたぼくに、きみは身体を震わせて、仰け反る。
もう、声すら、漏れはしなかった。
ただ、震える息で、小さな子供のように泣きじゃくって、怯えたように、震えて。
諦めたように。

好きだよ、はじめ。
きみを、ばらばらにしてしまいたいくらい。
どんなに求めても、全然、足りない。

貪るように、きみのくちびるを奪って、上も下も犯す。
きみはもう、ぐったりとぼくの為すがままで、ただ、つらそうに涙を零している。
そんなきみを感じながら、不意に、ぼくの限界がやって来た。
「うっ…くっ…」
ようやく、何度目かの限界を迎えて、きみの中に、劣情を吐き出す。
激しく、きみを揺さぶりながら。
その瞬間、きみは大きく身体を震わせたかと思うと、ぼくの背中に腕を回して、軽く爪を立てた。

「…ああああぁっ!…たか…と…」

そして、こう続けた。

「…あ…あいして…る…」

そして、意識を、失った。
青ざめて、涙に濡れたまま。
乱れた髪が、首に頬に張り付いている。
ぱたりと、きみの手が、力なく、落ちた。

一瞬、自分の耳を、疑った。
こんなに酷い目にあっていながら、いま、きみは、なんと言った?

ぼくは、動けなかった。
ぼくは、きみに、なにをした?
ぼくは…

正気を取り戻していた。

涙に濡れたままの、きみの頬に、きみのものではない雫が、落ちる。
いくつも、いくつも…

ああ…

こんな、ぼくでも、きみは、許してくれる。
すべてを、受け入れて、くれる。

ぼくは、きみが好きだよ。
だれよりも。
なによりも。

本当は、大切にしたいんだ。
でも、自分でもどうしようもない何かがこの中には居て、時折、目を覚ます。

きみは、それすらも、受け入れてくれるというの?

たぶん、きみは、なにも言わずに微笑んでくれるだろう。
後悔するぼくを抱きしめて、髪を撫でてくれるだろう。
もう、いいんだ、と、言ってくれるだろう。
そして、ぼくを、愛してくれるだろう。

無垢な、乙女のように…

ぼくが、いくらきみを汚そうとしても、どんなに、酷い事をしても、君の魂は、清らかな光を湛えたまま、決して穢れない。
ぼくの穢れた身体を、やさしく抱きしめて、その暖かい光で、包んでくれるんだ。
柔らかく、微笑みながら…

けれど、きみは、いつまで、堪えてくれるのかな。
こんなぼくを、いつまで、愛してくれるのかな。

いつか来るかも知れない、終わりの日に怯えながら、ぼくは愚かな恋情を募らせている。

きみだけを求めながら、何度も、きみを、傷つけて。
その度、許されることを、求めて。

お願いです。
どうか、離れて、行かないで。
ぼくを、置いて、行かないで。

意識の無い、きみの身体を抱きしめながら。
自分勝手なことだとわかっていながら、ぼくは、願う。

怯えてもいい、ただ、傍に居て、受け入れて。

まるでジョーカーのように、滑稽で、最強の、この狂気を孕んだ想いを。
きみだけに捧げる、愚かなる、恋情を。

どうか…

いつまでも…



05/07/10     了
_______________________
最近、普通にラブラブな作文が増えすぎてやしないかと、思って、
ちょっと、痛い系のお話をと、考えたのですけど、玉砕くさいですか?
『きみという光』の高遠くんで、今回、行って見ました。
高遠くんなんで、ラブラブな夜ばっかりじゃ、無いってことで。


05/07/10UP
14/10/07再UP
-竹流-


ブラウザを閉じて戻ってください