「Never land」-おまけ SS
深く、くちびるを重ね合って、互いに高まりあう…ことを想定していたというのに、
「ちょっと、待った!」
はじめの手が、重なろうとしていたぼくの口元を押さえて、それを遮った。
「おれさ~、さっきの話し聞いてて、ひとつだけ納得いかね~こと、あんだけど」
さっきまでの、甘い雰囲気は何だったんだ! と、いうくらい、ストイックな口調ではじめが切り出した。しかも、ぼくの口は押さえたままだ。
このままでは話すこともできないので、少しばかりの抵抗を試みる。
「おわ!」
色気の欠片も無い声を上げて、彼が手を引く。そして、その手をもう片方の手で押さえながら、ぼくを睨みつけた。
「なにすんだよ! もう!」
「ちょっと、舐めただけじゃないですか。ぼくに文句を言う前に、感じやすい自分の身体をどうにかしたらどうです?」
すると、みるみる顔を赤らめて、
「だ、誰のせいで、こんな身体になったと思ってんだよ!」
小さな子供みたいにすぐむきになって、すごく、かわいい。
でも、自分では、自覚ないんでしょうけどね?
つい、もっと、いじめたくなってしまう。
「さあ? 誰のせいでしょうね?」
クスクスと、忍び笑いがぼくの口から漏れると、本格的に彼は怒ってしまったらしい。
ぷいっと、ふてくされた顔をして横を向いてしまったと思ったら、急にベッドの隅まで移動して、そして、ぼくに背中を向けて、…動かなくなってしまった。
「はじめ?」
その様子が、いつもと少し違うような気がして、僅かな不安を覚える。
突然、はじめが口を開いた。
「あんたはさ、あの…シルビアって人と、十代半ばってことは、十五、六ぐらいのときにはさ、童貞喪失したわけだろ?」
沈んでるのが、はっきりとわかる声。
「妬いてくれてるんですか?」
そう声を掛けると、小さく横に首を振った。その様子は、明らかにいつもの彼とは違っていて、胸の中の不安が、また少し大きくなる。
「違うんですか?」
言いながら、側に寄ろうとすると、
「今は、こっちに来ないでくれる?」
拒絶された。はじめて…
「どうして?」
ぼくが問いかけると、はじめは深いため息を吐いた。それは、なにかを諦めたような、なにかに絶望したような響きを含んでいる気がして、怖くなる。
はじめが、遠くに感じる。ついさっき、ぼくのために、涙を流していてくれていたはずのきみが…
何かを言おうとして、ぼくが口を開きかけたとき、はじめが呟いた。
「なあ、高遠。おれってさ、このままずっと、童貞のまま、なのかなぁ…」
「………えっ?」
「だってさ、おれ、あんた以外の人となんて、したこと…ねーもん」
そしてまた、ため息を吐く。
しばらく、声も無かった。
いつも、ぼくたちは抱き合っていて、それは、世間一般ではセックスと呼ばれる行為ではあるのに、受け入れる側の彼は、確かに、まだ童貞…ということに、なるのだろうか。
それは…考えたことも、無かった事実。
ぼく自身、今まで何人もの女性と経験してきたことを、いや、今もずっと、ぼくが彼に対してしていることを、ぼくの恋人であるがために、彼は知らずに過ごしてゆくことになるのだ。
申し訳ない…とは、思うけれど…
………でも、他の人と、彼がそういう行為をすることは、絶対に許容できない。
「…はじめは、ぼく以外の人と、セックスがしたいんですか?」
彼の頭が、緩慢な動きでそれを否定する。
ぼくが、ほっと安堵の息を吐いたのもつかの間。
「…でも、おれ、男に生まれてきたのにさ、なんで、こんなことになってんのかなって…だいたいさ、高遠が………」
不機嫌そうに、ひとりでぶつぶつと呟きだした。
…これは…やっぱり、不貞腐れている、という域に入っているんですかね?
やれやれの意味を込めて、ぼくが盛大なため息を吐いたのが、どうやらお気に召さなかったらしい。
突然、凄い勢いで振り返ると、
「高遠はいいよな! いつも、やってる側だから! 童貞だって、早くに金髪の姉ちゃん相手に無くしてるしさ! おれの気持ちなんか、絶対にわかんないんだ!」
大きな瞳いっぱいに、涙を溜めて、ぼくを睨みつける。
その姿に、少し、愕然とした気持ちになる。
………はじめの気持ちは、確かに男として、わからないでも、ない…
生来、男とは、征服欲が強い生き物だ。
元々、同性愛好者でもないはじめは、それを押し殺して、ぼくの側に居てくれている。
その事実を、ぼくは見ようとはしていなかった。
いつも、ぼくを受け入れることばかり強要して、彼の気持ちなんか、考えてなかったんじゃないのか?
自分に、問いかけてみる…
また、背中を向けてしまった彼に、手を伸ばす。
「~~~~! もう! さわんなよ! 来んなって言ってるだろ!」
そんな言葉は無視して、強引に側に寄る。
「~~~なんだよ! もう!」
文句を言ってくる彼を、無理やり自分の方へ向けてしまう。
薄っすらと赤く染まった目元に、潤んだ瞳で見上げられてしまうと、ぼくのオスの部分が反応してしまいそうになる。でも、それじゃあ、駄目なんだ。
「はじめ…」
意を決して、口を開いた。
「きみがそんなにこだわるのなら…ぼくとしては不本意ですけど…」
「なんだよ」
きみが、不機嫌そうな視線でぼくを射る。
ぼくは、それを言葉にするのに、少しばかり、緊張を強いられた。
「…ぼくの身体で…試してみます?」
しばしの沈黙。
「はあ?」
ややあってから、きみが間の抜けた返事をした。
眼を見開いて、『何言ってんの、この人?』と、まるでその顔に書いてあるようだ。
なんですか…その顔は…
人が折角、妥協案を提示しているというのに。
「…わかってないようですね。いいですか? きみがそんなに童貞にこだわるのなら、ぼくの身体を提供しましょうと言っているんです!」
ちょっとむっとしながら、もう一度、きっぱりと言い切った。
はじめは、なんだか困ったような表情を浮かべている。
「え~と、それって、おれが、高遠を抱いてもいいって、言ってんの?」
「そうですけど? なにか問題でも?」
すると今度は、『いや~、困っちゃったな~、どうしよう~』的な薄笑いを浮かべながら、頭を掻いた。
「あ~、あのさ、気持ちは…嬉しいんだけどさ。…おれ、それ、絶対無理だから」
「どうして?」
問い詰めるような眼差しで、ぼくが見つめると、とぼけた表情をして、視線を泳がせた。
「………悪いんだけどさぁ、おれ、ナイスバディのお姉さんじゃねえと、勃たねえの…」
「はい?」
「だ・か・ら、いくら高遠が相手でも、男が相手じゃあ自発的に勃たねえの。おれ、そういうとこ、まともだもん」
悪びれもせず、二カッと笑うきみに対して、非常に複雑な気持ちになる。
「………それは、ぼくが、まともじゃないと、そう言いたいんですね?」
一体、ぼくはどんな表情をしていたんだろう? はじめはぼくの顔を見るなり、顔色を変えて千切れんばかりに首を振った。
「そ、そんなこと、言ってない! 全然! まったく!」
「…ふうん…」
指でそっと頬に触れると、びくりと震える。
そのまま、首筋から胸元へとゆっくり滑らせてゆくと、小刻みに身体を震わせながら、頬を高潮させて、ぎゅっと眼を瞑った。
…こんなにいやらしい身体をして、この口は何を言い出すんでしょうね?
「…わかりました」
「な、なにが?」
ぼくの呟きに、敏感に反応したはじめに向かって、にっこりと、微笑んでみせてやる。
少し、怯えているようなのは、この際、無視することにして。
「もう二度と、きみが童貞にこだわる事が無いくらい、気持ちよくしてあげればいいんですよね?」
なにかを言おうとしたくちびるは、くちびるで塞いでしまおう。
きみのすべてを、深く深く、探ってあげる。
もう、なにも、考えられないように。
だから、きみは、ぼくだけを感じて。
ぼくだけしか知らない、きみの奥深くで…
05/05/27 了
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表の「NEVER LAND」に託けておまけとして書いてありますが。
これは、自分的に、王道です(爆)!
やまなし、おちなし、いみなし!
やっちゃった~~~v
いや~、せっかく15禁にしたので、ちょっとぐらいそれっぽい作文でも書こうかな?などという、単純な理由で、常々、疑問に思ってることを形にしてしまおうかと考えたのです。
普通の人だったはじめちゃんが、高遠くんとこういう関係になって、童貞云々はどうなるのかなあ、とか、男である以上、こだわりがあるんじゃないのかなあ、とか。
で、おまけだったら、いいよねvとか言って書いちゃったv
自分としては、一応の答えとして納得できましたv(そうなんだ…)
ひたすら下品な作文になってしまいましたが、書いてたワタシは、結構、楽しかったですv
読んでくれた方も、気楽に楽しんでもらえたなら、嬉しいです。
05/05/28UP
14/11/14再UP
-竹流-
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