In a mirror




「…つっ…はじめ、もっと…力を抜いて…」
「あっ…そ…んなこ…と…言われて…も…」

少し、酔っているのか、今夜の高遠は性急で、おれはついてゆくのに精一杯で。
高遠の身体にしがみついて、身体を震わせながら、受け入れている。
おれの中に、穿たれる熱い高まり。おれは、もう、いっぱいいっぱいだと思うのに、まだ貪欲に、もっと奥深くへと、押し入ってくる。

「…う…んんっ…たか…と…」
「はじめ…好きですよ。もっと、ぼくを、受け入れて…」

高遠が、おれの腰を掴んで、強引に押し入ってくる。
焼け付きそうな感覚に、眩暈さえ、覚える。

「あうっ…んんっ…う…あああっ!」
一段と深く突き上げられて、悲鳴にも似た声が、おれの喉から迸る。
「はじめ…とても…いいですよ」
高遠はおれを組み敷きながら身体を起こすと、熱に浮かされたような眼差しで、おれを見つめた。
サイドテーブルの上の暗い灯りが、高遠の引き締まった身体を照らし出す。
それは、とても、きれい。

おれは、今、高遠の目に、どう映っているのだろう。
ふと、そんなことを、頭の片隅で考えてしまって。
途端に、どこか冷めた部分が大きく頭を擡げて、今の自分を分析し始めてしまった。

男に組み敷かれ、足を大きく開かされ、貫かれ。それを悦んで受け入れている、自分。
開かれた身体は、何一つ、高遠の目から隠すことも出来ずに、ただ、晒されて。

高遠の思うがままに、踊らされて。声を上げて。
考えただけで、羞恥に身体が震えそうになる。
女の人とは違うこの身体は、どこも綺麗じゃないし、柔らかくも無い。
高遠と同じ性を持つこの身体は、はしたなく快楽に敏感に反応して、小刻みに震えるそれを、主張するように勃ち上がらせている。

どうして、おれたちは、同じ性を持って生まれて来てしまったんだろう。
あまりの恥ずかしさに、涙が出てきた。

「どうしたんですか、はじめ?」
ぽろぽろと、涙を零し始めたおれに驚いたように高遠は動きを止めると、そっとおれの頬に手を伸ばして、零れ落ちる雫を拭ってくれた。
「痛い?」
高遠の言葉に、首を振る。

そうじゃないんだ、そうじゃないんだよ、たかとお。

「困った子ですね。一体どうしたんですか?」
言いながら、高遠は、やさしいキスをしてくれる。
とてもやさしく、蕩けるように甘いキス。
おれの好きなそれを、高遠は、何度も角度を変えながら、おれが泣き止むまで繰り返した。

「…たかと…おれを…見ないで…」
長いキスの後でおれがそう言うと、高遠は酷く驚いた顔をして、「なぜ?」と訊いてきた。
何故も何も、おれが綺麗じゃないからじゃん。
そりゃあ、高遠は男のクセに、凄く綺麗な身体をしてると思うけど。
白くて、肌理も細かくて、無駄無く引き締まった身体は細いけど、ちゃんと筋肉も薄くついていて、均整が取れている。
それに比べて、おれは…何のとりえも無い感じだ。
ただ、高遠に抱かれているだけの、普通の男。

「何故、そんなことを言うんです?」
高遠はなおもしつこく、おれに尋ねてくる。それが、あまりにも真剣で。
だから、本当は言いたくなかったんだけど、仕方なく、おれは白状した。
「だって…おれが…綺麗じゃ…無いから…」
「はあ?!」
おれの言葉に、とてもヤッテル最中だとは思えないような素っ頓狂な声を上げて、高遠はおれを凝視した。
「な…なんだよ…」
あまりの気まずさに、おれが、口を開くと。
「…自分のことはわからないって、よく言いますけど… あれって、本当みたいですねえ」
言うなり、高遠はおれの中から、自分自身を引き抜いた。
「…あっ…」
ズルッという感触と同時に、今までの圧迫が無くなって、熱を失ったような喪失感がおれを襲う。
「少し待っててください」
おれに、軽くちゅっと音を立ててキスした高遠は、ベッドから降りると、クローゼットの横に置いてあったキャスター付きの大きな鏡を、わざわざベッドの横まで持ってきて、立てた。
高さ180センチ、横90センチもある、大きな鏡だ。
いったい何を考えているんだか、相変わらず読めない男だし。

そのままベッドに戻ってきた高遠は、おれを引き寄せると、深く口づけてきた。
薄く目を開いて、横を見ると、キスしてるおれたちが、鏡に映ってる。
恥ずかしいんだけど、変な感じだった。
鏡に映ってるおれは、いつも見慣れてるおれとは、何かが違うような気がして。

高遠は、そのままおれを押し倒すと、再び繋がってきた。
一度、奥まで高遠を受け入れたそこは、もう苦痛も無く、すんなりと高遠を受け入れて、すぐに一番奥まで、高遠をすべて飲み込んでしまう。
「痛くないですか?」
高遠の声に頷くと、すぐに高遠は、おれを揺さぶり始めた。
深く、浅く、強弱をつけながら、たかとおはおれを翻弄する。
「…あ…んんっ…た…かと…いい…よ…」
おれの言葉に、高遠が薄く笑った気配があった。
と突然、高遠が身体を起こして、そのまま、おれの身体を抱き上げる。
えっ?と、思う間も無く、おれは高遠の上に、繋がったまま乗り上げていた。
「うあっ! ああ…あ… た、たかと… …なに…を…」
「大丈夫…すぐに、馴染みますよ」
自重で、さらに深くなった繋がりの衝撃でおれが身体を震わせていると、高遠はなだめるように何度も背中を撫でながら、あちらこちらにキスの雨を降らす。
おれが、ようやく息をつけるようになると、高遠は横に置いてある鏡を指した。
「はじめ、見て御覧なさい。きみの姿を」
言われた方に目をやると、そこには、高遠に身体を預けるように、ぐったりと身体を持たせかけ、ぴったりと密着している自分の姿が見えた。
薄っすらと、全身を桃色に染めて、目元をさらに紅く染めて、少し汗ばんだ身体に長い髪を纏わりつかせている自分の姿は、それが自分だとは信じられないほど、淫靡な雰囲気を纏って、悩ましげな表情を浮かべている。

「…やだ…たかとお…恥ずかしい…」
「恥ずかしくなんかありませんよ。きみがいつも、ぼくに見せているきみの姿です。綺麗だと、思いませんか?」
言いながら、高遠は、繋がりあっているおれの腰を掴むと、激しく前後に揺すった。

「はっ…ああっ!…だ、だめっ…たか……ん…ああっ!」
「目を閉じないで、はじめ。…ちゃんと、見て」
「…ん…んん…やっ…あ…」
「はじめ…ほら」

高遠に促されて、懸命に目を開けて、鏡を見た。
そこには、もう、どうしようもないくらい乱されて、切なげな表情を浮かべているおれが映っている。
目に涙を浮かべながら、けれど快楽に理性を失った眼差しが、まるで挑発するようにおれを見ている、気がして。

すごく、煽られた。

気がつくと、いつの間にかおれは自分で腰を揺らして、深く悦楽を追い求めていて。
鏡の中のおれも、また、いやらしく腰を動かして、こちらを見ている。
濡れた唇が、微かに笑った気がした。

そこに映っているのは、本当に、おれなの?

ぼやけて、纏まらない頭で、そんなことを、考えて。
高遠の熱を、その脈打つ感覚さえ体内に感じながら、おれは快楽の波に溺れる。
向うにいるおれも、淫らに、高遠を煽るように、乱れている。

まるで、おれじゃないおれが、そこにはいるようで。
男を受け入れながら悦んでいる姿は、まるで男娼のように、淫らで、綺麗だと、思った。

ああ、これは、高遠に変えられた、自分の姿なんだ。
そう、理解できた。
男を受け入れて、悦びを感じるこの身体は、もう、後戻りなど出来ないのかもしれない。
そう、思った。
でも、後悔なんて、しない。するわけ、ない。
だって、そこに映ってるおれは、とても幸せそうだから。

「…ねえ…たかとお…」
荒く息を吐く合間に、おれは高遠を呼ぶ。
「…なんですか…?」
高遠も、余裕の無い声で、返してくる。
「…おれを…こんなにした責任…取ってくれる?」
唐突なおれの言葉に、でも高遠は笑って。
「いいですよ…君が望むなら、オランダにでも行って、結婚しますか?」
「…紙切れなんか…いらない…誓いの言葉も、いらない…たかとおだけが…欲しい…」
「はじめ…」
高遠はおれの身体を抱き寄せると、やさしく腕の中に閉じ込めて、熱い口付けをくれた。
互いを奪いつくすように、舌を絡めあって、吐息が漏れることすら、惜しむかのように。
深く、繋がりあったまま。

「ぼくは、きみのものですよ。この身も、この心も、魂もすべて。だから、きみも、ぼくにすべてを預けて。ぼくに、すべてをくれると、言って」
おれの身体を、今度は強く抱きしめながら、耳元で高遠は囁く。
おれは、高遠の身体を抱き返しながら、その肩に頭を乗せて、鏡を見た。

鏡の中で、おれは幸せそうに、微笑んでいる。
迷いの無い眼差しで、おれを見つめ返している。
そして、ゆっくりと、唇を開いて。

なにを言うのかなんて、そんなこと。
もう、決まってる。



05/11/19   了
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なんとなく、裏、更新してみましたv
落ち込んでるときって、普通に書けなくって…
って、なんで裏なら書けるんですか?! ワタシ??!
ううう、やっぱり、あれな人間だからなのだろうか…

今回、何の設定も無く、普通に適当に書いてるので、内容は何も無いとです。
なんで鏡プレイ(?)になってしまったのかは、さっぱりわからんとです。
あまり突っ込まないで、欲しいとです。 …ヒロシです。
いや… なんとなく…書いてみたかっただけ(滝汗)。

-竹流-
05/11/20UP

あとがき等は当時のものですので、多少の時差はご勘弁ください。
14/12/07再UP


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