Pillow talk
「…なあ、おれ、いつも思うんだけどさ」
気だるい余韻の中、ふと、思いついたとでも言いたげに、はじめは口を開いた。
「なんですか?」
はじめの髪をやさしく梳きながら、高遠が言葉を返している。
真夜中の、甘く、濃密な時間。
月の青白い明りだけが、二人を照らす、唯一の光源。
「ん~~~~、なんていうか… まあ、いいや。なんでもない」
何かを言いかけながら、はじめは急に拗ねたように、フイッと高遠から顔を背けてしまった。
「気になりますね、何なんですか? 言ってください」
そんなはじめの顔を覗き込もうとするのか、スプリングを軋ませながら、高遠は身体を起こす。
寝乱れたシーツの上、しかもクイーンサイズの広いベッドの上で、いくらでも広く使える空間を、この二人は折り重なるほどに密着しながら横たわっている。
行為が終わったあとも、こうして睦言を囁きながら、離れようとはしない。
特に、高遠が。
そう、時折、はじめは思うのだ。
「こんなだったら、シングルベッドでも充分なんじゃねえの?」と。
ああ、でも、こんなこと、口が裂けても言えない。
言えば、絶対にこの男は、
「それもそうですね」
なんて言いながら、すぐさま行動に移してしまうだろう。そして、
「この方が、より密着できる感じで、いいですよね v 」
なんて、のたまうに決まっているのだ。
げに恐ろしきは、やたらと行動力がありすぎる上に、複雑そうに見えながら、こういう部分だけは非常に単純に出来ている恋人だと、はじめは想う。
実際に、一緒に暮らし始めるまでは、ここまで引っ付きたがりだとは想像もしなかったと言うのが、正直な所。
-もっと、複雑な男だと想ってたんだけどなあ… てか、エロいだけなんか?
怖くて、綺麗で、何を考えているのかわからない、不思議な男。冷たいようでいて、どこかしら滾るような情熱を併せ持つ、それが、高遠という男だと、以前は捉えていた。
そんな、底を見せない男だからこそ、自分は惹かれているのだと、想ってもいた。
けれど、と、はじめは思う。
こうして自分にくっついて、べたべたしてくるこの男も、やっぱり、どうしようもないくらいに、好きだ。
高遠のしなやかな指に触れられることや、重なり合う滑らかな肌やその温もりは、何ものにも変えがたいほどに、いとおしくて仕方がない。
時に、壊れてしまうんじゃないかと思うほどに、激しいときもあるけれど。
壊されて、死んでしまうんじゃないかと、感じるときもあるけれど。
それでも、幸せだと、思うのだ。
高遠が、また、身体に触れてくる。
さっきの言葉の続きを、強請って。
でも、絶対に教えてやらないでおこうと、はじめは考える。
行動に移されると、それは本気で怖いから。
それに。
やっぱり、ベッドは広いままの方が、どんな格好になっても、落ちないからいいよね?
とか。
ひどく実用的なことを考えてしまう自分に、苦笑を浮かべながら。
また、息が上がり始めて。
身体の奥で、熾火のように燻っていた熱が、再び全身を支配して。
やがて、淫らな水音が部屋の中に満ちる頃には。
きっと、もう、互いに何を話していたのかなんて、忘れているに、違いない。
06/05/30 了
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すいません(汗)。
ものすごく単純なお話になってしまいました(滝汗)。
これは、『雑文』行きかとも思ったんですが、シチュエーションがやはり大人向けだったんで、こちらに。
いや、マジぬるくって申し訳ない。
06/05/30UP
14/12/19再UP
-竹流-
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