淫夢




闇の中に、淫らな水音が響いている。
月明かりが差し込む室内は、闇になれた目には意外に明るく、その痴態を余すことなく眺めることが出来た。

「ああ…ン…たかと……もう、来て…」

うつ伏せのまま、高遠にその白い尻を突き出す形で、はじめは荒い息を吐きながら懇願している。
ぐちゅぐちゅと、いやらしい音を立てているその場所には、すでに三本もの指が挿入され、激しい出し入れが繰り返されている。

「なにを、どうして欲しいんですか?」

高遠の口元には、薄く笑みが刷かれていた。
もう片方の手は、はじめの股間へと回され、前からも彼に刺激を与えている。
震える背中に唇を落としながら、自分の愛撫に敏感に反応を返すはじめの姿を、高遠は楽しんでいるようだ。
高遠の言葉に、はじめの体温がさらに上がったのがわかった。
青白い月明かりの中でさえ、その肌が、ほんのりと色付いたのが見て取れる。

「…な…んで…わか…てる…くせに…」

汗ばんで、長い髪を乱しながら、はじめが振り返る。目元を紅く染め、ふくよかな紅い唇を艶かしく濡らしながら、はじめは高遠を睨みつけていた。
けれど、淫靡な光を湛えたその眼差しが、なおさら高遠を煽っているのをはじめは知らないのだろうか。拗ねたように、快楽に震える声で告げた。

「たかとうの…いじわる…」

涙さえ浮かべて自分を見つめるはじめに、高遠は、思わず咽喉を鳴らしていた。
はじめの中に埋め込んだ指の動きをさらに早めると、はじめは小さく悲鳴を洩らして、背を逸らせる。指を咥えこんだ部分がひくひくと痙攣しながら、奥へ奥へと導くように蠢き、高遠の指を食い締める。
昼間の彼からは想像もつかない、淫らな身体。
高遠自身も酷く煽られて、硬くのぼりつめたそれからは、すでに透明な液体が滲んでいる。

「言って、はじめ」

早く繋がりたいのに、今夜はどうしても彼の口から言わせたい。
そして、自分の言葉で余計に煽られて、乱れる彼を見てみたかった。

「あぁ…たかと…」
「早く、言って」

彼を責める指を、中でバラバラに動かしてみせると、はじめの身体が堪えられないとばかりに大きく震え出した。

「はっ…あああっ…早く、いれてっ! たかとおの大きいの、おれのあそこに突っ込んで…めちゃくちゃにしてくれよっ!」

その言葉を聞くと同時に、高遠ははじめの中に埋め込んでいた指を引き抜くと、うつぶせていたはじめの身体を軽々と、仰向けに転がした。

「よく言えました。ご褒美をあげましょうね」

羞恥に染まりながら、けれど嬉しそうに頷くはじめの足を大きく開かせると、結合するための部分が自分からよく見える位置にまで、はじめの足を倒して行く。
そこは、まだひくひくと蠢いて、高遠がやってくるのを待ち構えているかのよう。
高遠は、硬い自身をそこにあてがうと、ゆっくりと中に突き入れた。その途端、はじめが大きく首を仰け反らせながら、切なく声を上げた。
高遠は前後に腰を揺らしながら、はじめの狭い肉壁を掻き分けるように、中へと押し入ってゆく。
はじめの中は、熱く狭く、脈動を繰り返しながら高遠を締め付ける。
その、目も眩むような、快楽。
いっきに突き入れて動きたいのを、けれど、高遠は敢えて堪えている。
はじめに、もっと乱れて欲しくて。

「あっ、あああっ…んん……たか…と…もっと…奥まで入れて…もっと、動いてぇっ!」

はじめも、無意識になのだろう。腰を揺らめかせながら、身体を仰け反らせて、もっと奥へと強請ってくる。
高遠は、また口元に笑みを浮かべた。
昼間の彼なら、死んでもこんな恥ずかしいことを言ってはくれない。
快楽に弱いはじめは、夜の間だけ、素直になる。

高遠は一度、ギリギリまで腰を引くと、今度は一気に奥まで突き入れた。
その衝撃に、はじめが身体を大きく震わせて、声を上げる。
そのまま馴染むのも待たずに、高遠がはじめを揺さぶり始めると、耐え切れないとばかりに彼は声を上げ続けた。
けれど、この行為に慣れた身体は、苦痛よりも快楽の方が大きいらしく、頬を染めて切なげな表情を見せている。

高遠は想う。
彼は、自分がどんなに甘い声を出しているのか、わかっているのだろうかと。
それが、どんなに人を狂わせるのか、知っているのだろうかと。
けれど、なりふり構わず乱れている彼は、そんなことになど気がついてもいないのだろう。
この瞬間、どんなに自分が美しいのかも、どれだけ人を惹きつけずにはおかないのかも。

「はじめ、きみは、ぼくだけのものですよ」

快楽に溺れているはじめは、何を言われているのかもわからないまま、肯定の意味で首を振る。
でも、それでかまわないと、やはり高遠は想う。

ぼくのためにだけ、身体を開いて。
ぼくのためにだけ、甘く啼いて。
ぼくの腕の中でだけ、狂ってくれれば、それでいい。

繋がりあった部分が、淫らな音を立てながら、高遠をさらに食い締めてくる。
そろそろ限界が近い。
互いに動きを激しくしながら、ふたりでのぼりつめて行く。
ふたりでしか、手に入らない場所へと。





「という夢を見たんです」

叱られた子供みたいに、高遠がベッドの上に正座しながら、懺悔のように告白している。
その目の前には、うつ伏せで横たわっているはじめ。
動くのも辛そうに、けれど、怒ってますよオーラを滲ませながら、高遠を睨みつけている。

「ふ~ん、そんでいきなり眠ってたおれを襲ったってわけだ…」

激しい口調で無いのは、たぶん、大きな声を出すと身体に響いて痛いためだろう。
何があったのかは、一目瞭然だ。
すでに日は昇り、室内には朝の光が満ちている。

「本当にすみません。でも、夢の中で最後までいかなくて、目が覚めたとき、現実と区別がつかなかったんですよ」
「って、なんでパジャマ着て寝てるおれに、その続きを強要するかなっ!!」

思わず声を荒げた途端、イテテとうめき声を上げて、枕に顔を深く埋めるはじめを見ながら、高遠は心底申し訳無さそうに、眉を下げた。

「…ってか、なんでいつもヤッテんのに、そんな夢見るんだよ…」

はじめの小さな呟きに、高遠自身も首を傾げざるを得なかった。
自分でも、不思議で仕方がないのに違いない。
いつも触れ合って抱き合っているのに、なぜ夢にまで見るのかと。
ふと、はじめが、消え入りそうな声で不安を洩らした。

「…もしかして…おれとじゃ…満足できないのか?」
「そんなことは絶対にありませんよっ!」

間髪いれずに言葉を返していた。
その真剣な響きに、はじめは一瞬驚いた顔をして。それから安心したように、柔らかな笑みを浮かべた。
高遠は、それ以上は何も言わずにはじめの柔らかな髪に手を伸ばすと、そっとその頭を撫でた。
はじめが、静かに瞼を閉じる。
安らかな寝息が、はじめから聞こえ始めると、高遠は小さなため息を洩らした。
その髪に指を絡ませながら、高遠はいとおしげにはじめを見つめている。

彼との関係に、不満など、何もない。
なのに、なぜこんな夢を見るのか。
はじめには言わなかったが、こんな夢を見るのも、じつは初めてではないのだ。
何度と無く、繰り返される淫夢。

もしかすると、求めてもまだ求め足りない想いが見せているのかもしれないと、薄々気がついてはいた。けれど、それ以上考えるのを、高遠はいつも放棄する。
考えるその先は、きっと、幸福なものでは有り得ない。

「どこまで行っても、ぼくは罪人以外の何者でもないんでしょうか。ねえ、はじめ…」

眠ってしまったはじめに向かって静かに語りかけながら、高遠は、少しだけ哀しそうな笑みを、その薄い唇に、浮かべた。



06/07/21   了
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すいません、またしても、夢オチ。今度は高遠くんで(笑)。
しかも、寝ぼけたらしいんですよ、高遠くんが(爆)。
こんなのはじめちゃんじゃない!ってな感じで申し訳ないのですが(汗)。
ちょっと、こんなのも書いてみたかったんです/// ええ///
ポッと思いついて、二時間ぐらいで書いちゃったんで、ストーリーも何もあったもんじゃないので、勘弁してやってください。

06/07/22UP
再UP 15/01/23
-竹流-

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