旅の吟遊詩人



「何処へ、行かれるのですか?」
尋ねる私に、盲いた旅人は言った。
「恋人を…探しているのです。もう、ずっと前に旅に出て、もどらなくなってしまった恋人を…」

彼の、何も映さない黄金色の瞳は、その恋人の面影だけを止めているかのように、懐かしげに眇められた。

「だから、ぼくは歌うのです。彼がぼくに気付いてくれるように、このぼくの想いが、彼に届くように…」
そう言って、儚げに微笑んだ。

けれど、私は知っている。
彼の住んでいた町を、凶悪な盗賊団が襲ったということを。
町の若者たちは、家族を、愛する人を守るために戦い、そして勝利と引き換えに、たくさんの死人を出したことを。

彼の愛する人は、戻らなかったのだ。
永い、旅に出たのだ。
それを承知で、彼は旅を続けるのだろう。
いつか恋人が、迎えに来てくれる、その日まで。

「見つかるといいですね」
「ええ、きっと、見つけてみせます」

別れ際の彼の笑顔を、私はきっと忘れない。
彼の奏でる、切ない愛の調べとともに…



05/09/16    了
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旅の吟遊詩人、なんとなく、絵を描いていると、そんな風になってしまって、
折角だからと、急遽つけたSSSでした。
なんだかよくわかりませんが、竹流は、こんなのも、好きだったりします。
竪琴が、あとから、あんなんじゃなかったなあ、と気が付きましたが、
絵日記なんで、笑って見逃してやってくださいv

06/01/17UP
−新月−

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