風を切る音W 番外編



バカップルに鉄拳を。




最初に見たときは、またバカップルがイチャイチャしてる! ぐらいにしか思ってなかったの。


あたしは昨日ロストラブして、由佳に話を聞いてもらってるところだった。
突然だったのよ?
他に好きな人が出来たから、別れてくれって、彼に言われて。
信じてたのに。おかしいなって思っても、気のせいだって、ずっと、自分に言い聞かせて。
…でも、そうじゃなかった。
彼は、あたしと掛け持ちで他の女とも付き合ってたの。そして、その人を選んだってわけ。
捨てないでって、縋りつかれたんだそうよ?
わたしには、あなたしかいないのっ!って。

あたしには、とてもじゃないけど、そんなこと口が裂けても言えない。
離れてしまった人に縋りついて、行かないで、なんて…


だから、あたしの負けなんだろうなあ。
でも、平気で二股かけるような男に、そこまで入れあげる事なんて、あたしのプライドが許さないっての。
だから、すっぱり、さよならしたのよ。



そして今、学生時代からの悪友の由佳に、話を聞いてもらってる最中だったの。
今日は、とことん食べて、飲もうって、盛り上がってた所だった。

なのに、窓の外で、いきなりラブシーンが始まったってわけ。
ありえないでしょー!
もう、こっちは、失恋したばっかだってのに!
見てたら、腹立って来ちゃって!
文句のひとつも言ってやろうかなんて、真剣に考えちゃってたんだから!

あたしが、プンプン怒ってたら、目の前の由佳が、言ったの。
「ねえ、あれ、普通のバカップルかと思ってたらさあ…」
意味ありげに、中途半端に由佳は言葉を切って、あたしを見た。
「なに?」
話に食いついたあたしに、由佳はちょっと形容のしがたい、えと、頬を染めながら、なんて言うか妙に目をキラキラさせた感じであたしに顔を寄せると、小声で言った。
「あの二人、どっちも男よ」
「うそ?!」

思わずあたしも、今までとは違った目線で見ちゃったわ。
片方はどう見ても男の人で、でもよく見ると、すらりと背の高い、とても綺麗な人。
もうひとりの、その人の腕の中に納まってる子が、髪が長いから女の子だとばっかり思い込んでいたんだけど、よく見ると確かに、男の子の制服を身に着けているみたい。
そう言えば、女の子にしては背も高いし、肩幅もありそう…

でも… さっき、キスしてたよねえ?

ええっ?! それってまさか?!
由佳の方に顔を向けると、由佳も、頬を染めながらこっちを見ていた。

「やっぱり…あれって、そうなのかな?」
「…やっぱり…あんたも、そう思う?」

もう、互いに赤面しながらも、興味しんしんで眼が離せなかったわよ。
だって、雑誌でとかなら見たことあるけど、現物見るのなんて初めてだし!
しかも、結構絵になるカップルだしv!
由佳なんて、ケータイで写真まで撮りだすし!

でも、じっと見てると、なんだかこっちまで切なくなるような雰囲気が、あの二人の間にはあるような気がしてきた。
少し顔を上げた、髪の長い子の眼には、涙が浮かんでた。
抱きしめる男の人の眼差しも、怖いくらいに真剣で。

だから…
ああ、あの二人は、本気なんだ。
何を捨てても、後悔しないくらいの想いで、互いを好きあってるんだ。
そう、感じた。

同性同士で恋愛をするのは、あたしたちが考えるよりも、ずっと、つらいものなのかもしれない。でもその分、普通の恋愛より、純粋で真剣なのかもしれない。
そう考えて、あたしは、気付いた。
あたしの恋愛なんて、相手よりも、自分のプライドの方が大切だと思う程度のものだったんだって。
自分の総てを掛けるような、そんな熱いものでは無かったんだって。

この二人がしてるような恋愛に、あたしもいつか、めぐり逢えたらいいなあ。
いつの間にか、そんな気持ちになっていて、ロストラブした哀しさは、随分軽くなっていたの。


二人はそのまま、夕暮れに染まりはじめた国道沿いをバイクに二人乗りして走り去ってしまったけれど、あたしは胸の中に、不思議な感動を貰っていた。
そして、思ったの。
ふたりが、いつまでも今の気持ちを忘れずに、いつまでも幸せでいてくれたらいいなあって。
誰にも祝福されない恋愛だったとしても、あたしは応援してるから。

何処の誰とも知らないふたりに、心からの、エールを。
元気をくれた、お返しに。

でも、見境の無いラブシーンは、もう勘弁してよねv



05/10/18   了
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日記に書いていた、「風を切る音」の番外編です。
「W」の所のシーンの、第三者視点で書いたものなのですが、いかがでしょう?
いや、駐車場でまだ明るいうちからぶちゅvとやっちゃってたら、見られているに
違いない!という思い込みで書きましたv

06/03/04UP
−新月−

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