White Christmas





「ほら、たかとお、雪だぜ」

空を見上げながら、きみは手のひらを差し出して、その冷たさを確かめるように、空から舞い降りる白い小さな結晶を受け止めた。
触れた途端、体温に解けて、手の上で小さな水滴と化してしまう結晶を、けれど、きみは嬉しそうに眺めている。

「ホワイト・クリスマスですか」
ぼくが言うと、ようやくこちらに顔を向けて、
「うん」
さらに笑みを深めながら、きみは簡潔に答えを返した。
こんな簡単なことで、きみは喜ぶんだね。
そんなことを考えていると、またきみは空に顔を向けて、ぽつりと呟く。

「たかとおとさ、初めて一緒に過ごすクリスマスだろ? 雪まで降ってくると、なんか、それらしく雰囲気盛り上がるよなーとか思って」
そして、少し頬を染めた。
「はじめ…」
ぼくが何かを言おうとしたら、その言葉を遮るように、照れ隠しのように、きみは突然、これ以上ないくらい明るい笑みを浮かべながら、ぼくの腕を掴んだ。
「早くケーキ買って帰ろうぜv」
さっきとは裏腹の、まるで子供みたいなきみの言い様に、自然とぼくの口元にも笑みが浮かんでしまう。

街は、美しく色とりどりのイルミネーションに彩られ、たくさんの人々が、このイベントに心躍らせている。
恋人たちは寄り添い、道を行く誰もが大切な人へのプレゼントを抱えながら、幸せそうに微笑む。

ずっと、自分には縁の無いものだと、思っていた。
温かな光に背を向けて、いつもひとり、冷たい部屋で過ごしてきた。
こんな風に、大切な人が出来るなどとは思いもしないで、罪を、重ねた。
白い雪を、紅に染めて。

どうか、神さま。
いつか罪を贖うその日が来るまで、少しの猶予をください。
普通の恋人たちと同じように、この日を過ごすことを、お許しください。
そしてその時間を、少しでも、長く、ください。

我ながら我侭だと、苦笑が浮かぶ。

ぼくの横で、何も知らぬ気に、きみは無邪気に笑う。
すべてを承知しながら。
だから、今はこのまま、人々の中に紛れてしまおう。
そ知らぬ顔をして、神の子の生誕を祝おう。

白い雪が舞う。
すべての穢れを、覆い隠すかのように。

今宵、幸せなイブを。
きみと。


05/12/24    了
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05年度の絵日記に書いたSSSなのですが、折角なんでアップですv
使いまわしですみません(汗)。

06/12/24UP
−新月−

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