マッサージ
「は、ああっ、そこは…だめっ!」
耐え切れないとばかりに、はじめの口から甲高い声が洩れた。
「ああ、ここがいいんだね」
答える声は、酷く楽しげで満たされた様子を伝えてくるのだが、しかし、それは高遠の声ではない。
「あ、あああ、もう、だめえ…」
「まだまだ、こんなくらいで弱音を吐くなよ、BABY」
高遠のそれよりも低く太い声が、はじめの声に答えている。
室内は明るく、簡素なベッドの上で、はじめの身体は金色の体毛に覆われた筋肉質な腕に押さえつけられていた。
「はあ、おれ…もう、あっああっ!」
はじめがまたしても、切なげな声を上げたときだった。
「なにをしているんですかっ!」
木製のドアを蹴破る勢いで、入ってきたのは高遠だ。
走ってきたのか、妙に息が切れている。が、目の前の光景を見るなり、ドアを開けた状態のまま固まってしまった。
べッドの上ではうつぶせに横たわったはじめの上に、屈強そうな男が馬乗りになっている。
「おっ、ヨウイチ、おまえもやって欲しいのか?」
男は高遠の姿を認めるなり、明るく声を上げた。
「メ、メルロ…何をやっているんです?」
酷く困惑した表情の高遠を尻目に、メルロはハッハッハッと陽気に笑った。
「あっ、ヨウイチ、順番抜かしは駄目だぞ。次はオレなんだから」
その声に、はじめたちしか見ていなかった高遠は、他にも人が部屋の中にいたことに気が付いた。声のした方を見ると、数人の先客らしき男たちが小さなテーブルを囲んでトランプに興じている。
全員、この店のスタッフかと思いきや、隣の店の主人も混ざっているらしい。
「一体、みんな揃って何を…」
「何って、見ればわかるだろ?」
高遠の言葉を遮ったのは、さっき「順番を抜かすな」と声を上げたアッシュだ。
「東洋式のマッサージだよ。じつはメルロは以前から興味があって、ずっと内緒で習っていたんだと。それが先日、ついに免許皆伝したってんで、今日はお披露目もかねて、ただでやってくれるってさ。ヨウイチもどうだ? 疲れやコリには効くらしいぜ。ただし、順番は譲らないけどな」
どのくらい待たされているのか、あくまで順番にこだわりがあるのだろう。トランプは、そのための暇つぶしということのようだ。
だが、そんなアッシュの言葉に、高遠はどっと疲れが押し寄せてきたような気がしていた。
不穏なはじめの声を聴きつけて、何事かと慌てて走ってきたらば、まさかマッサージとは。
気が抜けたように、がっくりと肩を落とした高遠に向かって、メルロは豪快に笑いながら。
「いやあ、はじめの感じやすさには驚いたよ。マッサージ中に声を出すやつは結構多いんだが、こんなに悩ましい声を聴いたのは初めてだ」
羨ましいな、ヨウイチ。
と、最後に明るく止めを刺した。
08/08/09 了
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ええ~と、ずいぶんと前に日記に書いた代物です。
挿絵はそのときに描いたものです///
メルロさんは、高遠くんとはじめちゃんが働いているショウパブの支配人さんなのですが、彼のことはまだ、ちゃんと話には書いていませんxx
二人の関係については、周知の事実、と言う状況で。
いずれ、「LOVERS」のほうに書くつもりでいます。
あ、裏のお話には(すでに)書いているので、UPはまだですが、その時はまた、よろしくです。
14/10/07UP
-竹流-
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